Exhibitions

物語の「むかし、むかし」という出だしは、今ここから何十年前ということではない。
今もしかしたら並行してある世界までをも含む大きく広い言葉で、その世界の描写が続くと考える。
私はふとした瞬間にその気配を感じることがある。

30年前に祖父が、19年前には母が、2年前には祖母が他界し、3年前に子が生まれた。
いつまでも続くと思っていた当たり前の日常が節目節目で変化していく。
輪廻と浮遊感については、より一層身体にまとわりつくようになった。
母は私が3才の頃はどう接していたのだろうか。
私もまた3才の子に接しているのは不思議な気持ちになる。

毎朝のように河川敷沿いをランニングするようになって、1年が経った。
走ると共に移りゆく景色に刺激され、様々な事を思い出したり空想が広がる。
昔と今は分断されていて、ちょうど橋から見る「空と川」のようだ。
空の様子は川に映り、交わらないが、空も川も刻々と変わっていく。
しかしそれは一体の風景として存在している。
私は風景の中に豊かな”物語”を見て、風に撫でられながら走っている。
それは輪廻や死生観にも繋がるだろう。私がこれからも探求し続け創作の核としているテーマを実感する日々だ。

サブタイトルに想いを込めて短歌を詠んだ。

ー風なびく奏でる時のひずみから宙のあいだに浮かぶ空白ー

時は1秒も止まらず、景色も1秒として同じものはない。
ただ足を止めて自己を省みると浮かびあがる空白がある。

今回の個展は、風景と空白と時間を行き来しながら、画面に向き合った結晶だ。

春草絵未